身売りを検討している米ユニビジョン・コミュニケーションズ(NYSE:UVN)の買い手として、メキシコのメディア大手グルーポ・テレビサ(NYSE:TV)は最も理想的に見えるかもしれない。しかしテレビサがユニビジョンを買収するには、法的問題や経営トップ間の対立などの障害をクリアする必要がある。
スペイン語放送最大手のユニビジョンは2月8日、身売りを含む戦略的選択肢を探ることを取締役会が決定したと発表した。
ユニビジョンに番組の大半を提供しているテレビサは保有現金が潤沢。メキシコの独禁規制により、メディアでは事業のさらなる拡大が難しいことから、最近は格安航空、場外馬券などへ事業の多角化を進めている。しかし、事業の拡大ではメディア業界での伝統的な強みを生かすことを希望している。
グズマンのアナリスト、フィリップ・レメク氏は「テレビサは10億ドルの現金を抱えているが、メキシコでは買収できるものがない」と指摘した。
テレビサの最高経営責任者(CEO)を務めるのは、中南米で最も有力で野心的な実業家の1人であるエミリオ・アスカラッガ氏(37)。アスカラッガ氏の下、テレビサは外国に成長機会を求めているメキシコ企業の先頭を行く。テレビサは昨年11月、スペイン政府から放送免許を取得し、スペイン市場に参入した。現地企業と提携し、新しいチャンネルを3月か4月に開始する計画だ。
アスカラッガ氏は今後も拡大路線を走るとみられている。テレビサの株価は過去2年間で2倍の水準に上昇した。同社の米国預託証券(ADR)の16日終値は前日比1.54ドル(1.95%)高の80.56ドル。一方、ユニビジョン株は同1セント(0.03%)高の33.85ドル。両社とも時価総額は100億ドル強。
テレビサの株価収益率は、2006年の予想1株利益ベースで約16倍。ユニビジョンは32倍。米国のメディア企業の平均は20倍程度だ。
ユニビジョンを買収すれば、テレビサは米メディア市場の主要プレーヤーになれる。米国のヒスパニック系住民の可処分所得はメキシコの国内総生産(GDP)に相当。スペイン語メディアは極めて魅力的な市場だ。現在、テレビサの米国事業は、スペイン語雑誌数タイトル、「TuTV」と呼ばれるケーブルテレビ(CATV)チャンネル、ユニビジョンへの出資11%などにとどまっている。テレビサの2004年売上高26億3000万ドルのうち、ユニビジョンからのロイヤルティーやその他米国事業から得たものは10%に満たなかった。
ユニビジョンと同社CEOのジェロルド・ペレンチオ氏(75)は1株40ドル程度での売却を目指しており、こうした高い価格で買収を検討できる企業は限られている。テレビサはその1社とみられる。他の買い手候補には、ニューズ・コーポレーション(NYSE:NWS.A)、タイム・ワーナー(NYSE:TWX)、CBS(NYSE:CBS)、ウォルト・ディズニー(NYSE:DIS)などが含まれる
米連邦通信委員会(FCC)の規制により、メディア企業1社の放送地域が、米国内全世帯の39%を超えることは認められていない。このため、CBSとニューズの場合、ユニビジョンを買収するには一部の資産を手放す必要が生じる。
ニューズのルパート・マードック会長兼CEOは先週、「適正な」価格であれば、ユニビジョン買収を検討するとしたものの、同社について「われわれには明確な意図はまったくない」と語った。
メディア企業や広告業者にとってユニビジョンが特に魅力的な理由は、米国のヒスパニック人口の拡大だ。この成長市場に注目し、ゼネラル・エレクトリック(NYSE:GE)傘下のNBCユニバーサルは2002年、ユニビジョンのライバルであるテレムンドを27億ドルで買収した。
しかし、スペイン語番組視聴者の4人のうち3人はユニビジョンのチャンネルを見ており、テレムンドはユニビジョンに大きく引き離されている。その差はコンテンツにある。ユニビジョンは人気番組の大半をテレビサから供給されている。
アスカラッガ氏がメキシコ人であるため、同氏が米国籍を取得するまでは、外国人持ち株比率の上限を25%に定めた米メディア所有規制に触れるのを避けるため、他社と手を組む必要がある。しかし同氏のメキシコ系米国人の妻が昨年、サンディエゴで男児を出産したことが、将来の米国籍取得に道を開く可能性がある。
高い買値や国籍の問題以外にも障害はある。アスカラッガ氏とペレンチオ氏のとげとげしい関係だ。
アスカラッガ氏は、ペレンチオ氏の経営選択に対し、不満を表明してきた。またテレビサとユニビジョンは、番組契約の条件をめぐって法廷で争っている。テレビサは最近、ユニビジョンの行為は重大な契約違反だと述べるなど、攻撃を強めている。1月30日に行った申し立てでは、ユニビジョンの会長と取締役会による「コーポレートガバナンス(企業統治)の無視」を指摘した。
テレビサがユニビジョンを買収できなかったとしても、ユニビジョンにとって、テレビサとの関係が重要であることには変わりない。「ユニビジョンを買収する企業は、番組供給を続けてもらうためにテレビサと良好な関係を築く必要がある」とミラー・タバックのメディア業界担当アナリスト、デビッド・ジョイス氏は話した。