米マーベル・エンターテインメント(NYSE:MVL)の株式を保有する投資家らは先月末、強烈な一撃に見舞われた。強力なパンチを相手に浴びせるのは通常、マーベルの漫画本や映画に出てくるスーパーヒーローだが、今回、投資家に不意打ちをかけたのは同社の重役室での出来事だった。
マーベルは5月31日、映画部門「マーベル・スタジオ」のトップとして「スパイダーマン」、「X-MEN」シリーズなどのドル箱作品の制作で創造的な力を発揮してきたアビ・アラド氏(59)が、独自の映画制作会社を立ち上げるため、辞任したと発表した。アラド氏は今年いっぱい、クリエーティブアドバイザーとしてマーベルに助言をする。この発表の日、マーベルの株価は4%近く下落した。
その数時間後、投資家はさらなる驚きに見舞われた。アラド氏が、保有するマーベル株を300万株以上売却したと伝えられたことだ。これは同氏の保有株の過半数に当たる。マーベル株はこの翌日、さらに下落した。
先週完了した1億ドルの自社株買いプログラムなどにより、株価はやや持ち直している。新たな自社株買いが実施されている間は保有株を売却しないことに最大株主のアイザック・パールミュッター最高経営責任者(CEO)が同意したことも下支え要因となった。先週9日終値は11セント(0.56%)安の19.63ドル。時価総額は約16億ドル。
アラド氏はインタビューで、保有株を売却したのは遺産計画による必要性のためだったとし、「株式を売却するのに良い時などはない」と話した。
映画スタジオの幹部らによると、アラド氏はスパイダーマン・シリーズなどの成功に大きく貢献した。マーベルのピーター・クネオ副会長は、「アビ(アラド氏)はハリウッドでトップの映画幹部の1人だ。彼の稼ぐ能力が大きく拡大したため、彼が独立したプロデューサーとして得られる収入に見合うものを当社が提供することは不可能になった」と話した。
アラド氏の去就をめぐる不安は、マーベルが分岐点に立っていることを浮き彫りにした。マーベルは長年、キャラクターのライセンスを玩具メーカーやハリウッドの映画スタジオに供与することで収入を得てきたが、昨年、アラド氏が監督していた映画部門を通じて漫画の原作に基づいた映画を独自に制作する計画を発表した。メリルリンチが同社のためにまとめた5億2500万ドルの信用枠を利用し、向こう10年間で映画10作品をリリースする計画。
ヒット作が続けば、収益成長が数年にわたって期待できる半面、映画制作特有のリスクも伴う。長年にわたって映画部門を指揮してきたアラド氏がいなくなったことから、高い制作費を投じた作品の興行成績が振るわなかった場合の打撃を受けやすくなるとみられる。
マーベルの2005年の純利益は1億0280万ドル。スパイダーマンの映画がヒットした2004年の1億2490万ドルを下回った。マーベル漫画をベースとした作品で今年リリースされるのは「X-MEN:ザ・ラスト・スタンド」の1本のみであるため、アナリストらは、06年の純利益が5000万ドル程度にとどまると予想している。
漫画のキャラクターやストーリーのライセンスを供与することで、マーベルは制作コストを避けながらライセンス収入を確実に上げることができ、リスクを抑えられてきた。しかし、同時にこれは同社の利益の拡大余地を制限するものでもあった。
マーベルが連邦破産法の手続きを終えようとしていた1990年代後半であれば、それで許されていただろうが、スパイダーマンなどのフランチャイズがドル箱として認識されるようになってからは、そうはいかなくなった。スパイダーマンの映画を制作したソニー・ピクチャーズ・エンターテインメントはチケット収入だけで数億ドルの収入を得た。マーベルは1939年から漫画本を出版しており、事業の収益性を高める新戦略を練ってきたが、近年は緩やかな成長にとどまっている。
アラド氏は来年も「スパイダーマン3」など一部の映画の制作でマーベルとの関係を続ける予定。マーベルは、新たな顧問契約を同氏にオファーするかどうかは明らかにしていない。