卵子なしで万能幹細胞 京大、マウス実験成功 倫理クリアし再生医療に道
京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授、高橋和利特任助手らは、卵子や受精卵を使わず、マウスの皮膚細胞から身体の多様な細胞に分化する胚(はい)性幹(ES)細胞に似た万能幹細胞を作り出すことに成功した。この幹細胞を「誘導多能性幹(iPS)細胞」と命名、ヒトの体細胞から作れないか、実験を続けているという。同じ方法でヒトの体細胞を万能化できれば、受精卵などを使わずに移植用の細胞が得られ、再生医療は実現に向け前進する。
ES細胞は、脊髄(せきずい)損傷や心筋梗塞(こうそく)などの再生医療への応用研究が進められているが、卵子や受精卵を壊して作るため反対論が根強く、米国では7月、キリスト教的倫理観を背景にブッシュ大統領がヒトES細胞研究の促進法案の成立に対して拒否権を発動した。
iPS細胞は、卵子や受精卵を使わないため倫理的問題を回避できる可能性があり、患者自身の細胞から作れるようになれば、他人の細胞移植に伴う拒絶反応を回避でき、再生医療に道を開くとみられる。
研究チームは、ES細胞に含まれる24種の転写因子のうち、4つの因子の遺伝子をマウスの尻尾から採取した皮膚細胞に導入。ES細胞と同様にさまざまな細胞に分化する万能性を持つ幹細胞ができることを発見した。
実験では、4つの遺伝子を導入したマウスの皮膚細胞が、3週間後に神経や軟骨、消化管のような組織などに分化。試験管内でも、神経、心筋、肝臓の細胞に分化したことを確認した。細胞移植治療への貢献が期待できるほか、薬物が体のどこに効くかを調査するスクリーニングなどに役立つという。
山中教授は「人間の体細胞もこの4種類の遺伝子でiPS細胞になるかどうかは、今後研究してみないと分からない。ウイルスを使う遺伝子導入法も安全上の問題があり、別の方法にする必要があるが、臨床応用を目指したい」と話している。
この研究は科学技術振興機構のプロジェクトの一環で実施され、成果は米科学誌「セル」の電子版に10日(日本時間の11日)、掲載された。
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【用語解説】胚性幹(ES)細胞
体にあるすべての細胞になることができる能力を持つ細胞。分化を始める前の受精卵(胚)から採取する。受精卵は個体を作ることができるため全能細胞と呼ばれ、万能細胞や多能細胞と区別される。また、身体の各組織で一定の種類の細胞に変わるとともに、自ら増殖する能力がある細胞を幹細胞と呼ぶ。