英政界で与党の労働党と最大野党の保守党が中道層の支持獲得を争い、政権との関係強化をうかがう財界もいずれを支持するかに頭を悩ませている。中でも話題は1994年のブレア労働党の誕生時に同党支持に回った「メディア王」、ルパート・マードック氏。75歳になり、後継経営者が問題になる中で将来もどう政界と付き合っていくかが懸案になりつつあるという。
マードック氏が会長を務めるニューズ・コーポレーションは英国では高級紙タイムズのほかに大衆紙サンやスカイ・ニュースといった有力メディアを傘下に持ち、労働党を支持している。とくにサンは英国で最大の300万部を誇り、世論に影響を与えてきた。
マードック氏はもともと保守党支持だが、現実路線に転換して労働組合に依存する体質から脱却し、国民政党へとのし上がった「ニュー・レーバー」(新しい労働党)が登場して労働党支持にくら替えした。97年の総選挙で労働党の政権奪還を支えた経緯もある。
ただ、ブレア首相が9月に1年以内の退陣を表明し、後継指導者として最有力のブラウン財務相が首相になっても労働党支持を続けるかが焦点だ。財務相は首相よりも左派寄りといわれる一方、保守党が右派から中道寄りに党改革を進めているからである。
英紙フィナンシャル・タイムズによると、マードック氏も息子らに影響されて環境問題に関心を示し始めているという。保守党のキャメロン党首も環境対策に乗り出し、「グリーン・コンサーバティブ」(緑の保守党)を掲げるだけに同氏には微妙な状況ともいえる。
一方、政治家にもマードック氏の影響力は魅力だ。サンが支持した政党は総選挙に勝利するとまでいわれる。同氏は「影響力のある政治家」を好む半面、メディアの力でそうした政治家を生み出すことに熱心だとも指摘され、政治家も真剣だ。
マードック氏が米誌ニューヨーカー最新号に、首相と財務相はともに同氏をお茶に誘って親密な関係を維持しようとしていると語ったのもうなずける。ただ、首相と財務相の長年の権力争いに巻き込まれるのを懸念し、一方だけと会うことは避けているという。
興味深いのは、辣腕経営者らしく、労働党の改革を熱っぽく訴えるブレア首相に心酔はしても自ら退陣時期を口にしたことには失望していることだ。逆にきまじめな印象のブラウン財務相は、教会にも行かず、酒を飲むばかりという英社会を少しはまともにしてくれると期待をかける。
とはいえ、保守党もキャメロン党首と同氏の会談を何度も設定し、保守党支持に引き戻そうと躍起だという。同党首の人生経験不足が難点と指摘するものの、「小さな政府」と民間活力を求めるマードック氏にとって企業をどこまで活用する気かでいるかに疑問を感じさせる財務相よりは新鮮で聡明(そうめい)にみえるようだ。
マードック氏も経営を息子に引き継ぐ時期が近づいているといわれ、将来の政権との付き合い方がそろそろ気になってきている。労働党と保守党のいずれを支持するかは財務相の今後の言動次第だといい、いまは動静を見守っている。
米国でも時期尚早とはいえ、2008年の大統領選に向けてマードック氏は共和党と民主党のいずれを支持するかは決めていないという。米英ともに政界が節目を迎える時期が近づいているだけに同氏の発言は米英の政界の動向とも絡んで今後も関心を集めそうだ。
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【プロフィル】ルパート・マードック氏(Rupert Murdoch)
豪州ビクトリア州メルボルンの新聞のオーナーである実業家の家に生まれる。英オックスフォード大に留学。22歳の時に父が死亡し、家業を継いだ。新聞や雑誌、テレビなどの買収を繰り返し、一代でメディア帝国を築いた。ニューズ・コープは2004年に豪州から米デラウェア州に本社を移転した。